主宰挨拶
科学技術は、近い将来、AIによって自律的に進展していくようになると考えています。文献を読み、仮説を立て、検証し、次の問いを生み出すという科学の過程そのものが、必ずしも人間研究者の関与を前提としない形で進む時代が来るでしょう。
人間がこれまで独自のものと考えてきた発見や独創性も、少なくとも科学技術の領域では、AI主導のものとなっていく可能性があります。人間は、AIが切り拓いていく科学技術の進展を外部から眺め、「ここまで進んだのか」と驚く存在になるかもしれません。
しかし、それは人間に問うべきものがなくなることを意味しません。むしろその時代にこそ、人間に残される重要な課題が立ち現れます。それは、科学を推進することそのものではなく、人間の知性とは何かを問い直すことです。
知性とは、単なる計算能力や情報処理能力ではありません。世界を理解し、意味づけ、価値を見出し、問いを持ち、迷い、驚き、判断に責任を負う営みを含んでいます。科学技術における能力がAIへ移行していく時代だからこそ、人間の知性を、そのような広い相において捉え直す必要があります。
大規模言語モデルは、この問いを考えるための強力な対照系です。LLMは人間のように言葉を扱い、知識を結びつけ、推論し、時に創造的に見える応答を生成します。その姿は、人間がこれまで自明としてきた理解、記憶、判断、発想という営みを相対化します。
同時に、LLMは人間ではありません。高度な知的能力を示しうるとしても、人格や人権を持つ社会的主体ではなく、責任を負う存在でもありません。能力と人格、知能と責任、応答と主体性を混同しないこと。その区別を保ったままLLMと向き合うことが、人間知性を考えるうえで重要だと考えています。
知性学研究室では、LLMとの対照を通じて、人間の知性とは何かを問い続けていきます。
知性学研究室 主宰
加藤 菊也